グラファイト端の電子状態
グラファイトシートには下図のように幾何学的に 2種類の端の切り方があり,それぞれジグザグ型,アームチェア型と呼ばれています。このうちジグザグ端にだけパイ電子の局在状態("グラファイト端状態"とよばれる)が存在することを日本の理論家が予言していました。
我々はグラファイト端状態の存在を実証するために HOPG 表面のジグザグ端をもつ単原子ステップ近傍で STS 測定を行いました [1, 2, 3]。端が近づくにつれてフェルミエネルギー直下の -20meV 付近に dI/dV ピークが成長するのが観測され,さらにこのピークは端を通り越すと直ちに消失することがわかりました(下図)。
HOPG 表面のジグザグ端ステップ近傍の微分トンネルコンダクタンス(T = 77K)
図中の数字は端からの距離(nm) |
このようなピーク構造はアームチェア端のステップでは観測されないので,この実験で初めてグラファイト端状態の存在が確認されたことになります。ところで,グラファイト端状態は局在スピンすなわち磁性を伴うという理論的な指摘があります。これについては探針に強磁性体を使ったスピン依存 STS の手法で近い将来解明したいと考えています。
一方,アームチェア端のステップ近傍のテラスでは下図に示したように場所によって 2種類の超格子構造が STM 観測されました。これは金属表面などの自由電子系で見られるフリーデル振動が強結合の格子系で現れたものと解釈できます。
アームチェア端(左上)近傍の STS 像
(√3 × √3)R30 (赤色)とハニカム(黄色)型の超格子構造が見える
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[1] Y. Niimi, T. Matsui, H. Kambara, K. Tagami, M. Tsukada, and H. Fukuyama, Appl. Surf. Sci. 241, 43 (2005).
[2] 福山 寛, パリティ20, 29 (2005年1月号, 丸善).
[3] Y. Niimi, T. Matsui, H. Kambara, K.Tagami, M. Tsukada, and H. Fukuyama, Phys. Rev. B 73, 085421 (2006).
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